光が満ちる場所
体には、ピンクの記憶が流れている。
鼓動、血、月の満ち欠けと共に変化していく、命そのもの。
魂には、ブルーの静寂が広がっている。
重力からも時間からも自由な、星の余白。
そのふたつの間に、もうひとつの動きがある。
体でもなく、魂でもない。
外から差し込む世界の光を、その都度、どんな意識で受け取るか。
それを決めているもの。
外から差し込む光は、その日によって色を変える。
眩しい朝もあれば、薄暗い午後もある。
体は、生きようとする。
魂は、思い出そうとする。
けれど、その光を、どんなものとして受け取るかを決めているのは、いつも、心。
イエローは、世界をどう受け取るかを決めている心の働き。
ピンクは体として世界に触れ、ブルーはたましいとしてそれを見つめ、そしてイエローは、心として世界をどう受け取るかを決めている。
第1章:はじめて選んだ色
子どもの頃、私の服はいつも母が選んでいた。
生地も、デザインも、全部。
それが当たり前だったし、不満なんてなかった。
でも、ある日。
初めて、自分で生地を選んだ。
レモン柄。

なぜその柄に惹かれたのか、理由は今も分からない。
でも、そのとき確かに「これがいい」と思った。
誰かが選んでくれたものじゃない。
自分の中から、ふわっと浮かび上がってきた、好きっていう感覚。
レモンの黄色は、甘酸っぱくて、ちょっと照れくさくて、それでいて驚くほど瑞々しい。
あの小さな選択は、きっと、初めて自分の感覚で光を選び、心に取り込んだ瞬間だった。
正解かどうかなんて、誰にも分からない。
でも、自分が惹かれたものに、手を伸ばしてみる。
その感覚は、今も消えていない。
ただ、大人になる過程で、奥にしまい込まれていっただけ。
きっとあなたにもあるんじゃないかな。
役に立たないからっていう理由で、遠ざけてしまったもの。
第2章:レモンの季節
私には、強烈に印象に残ってる漫画がある。
畳の上に、お腹をつけて寝そべって読んでいた。
夏休み。扇風機の生ぬるい風と、外から聞こえる蝉の声。
なかよしの付録だったけど、新しい紙とインクの匂いは今も覚えてる。
付録だから、同世代の人でも知ってる人が少ない。
あらすじは・・・
主人公のミッチは、いつも元気いっぱい。
クラスの人気者で、サバサバしていて、男の子にも一目置かれている。
そんなミッチに憧れていたのが、内気でお嬢様タイプの女の子、ノン。
二人は仲良くなって、ノンは、ミッチの影響でどんどん明るくなっていく。
成績も良く、人望も、ぐんぐん伸びていく。
ページをめくる指が、少しずつ速くなる。
クラス委員選挙のページ。
ノンの自信になればと、1票を入れたミッチ。
けど、投票の結果、ノンが委員に選ばれてしまう。
「クラス委員になりたいとは思わない。
けれど、みんながあたしより、ノンの方にかたむいたのが、淋しい。
ノンが明るくはきはきした子になったのは、あたしの力なのに……」
そのコマを読んだ瞬間、喉の奥が、きゅっと熱くなった。
扇風機の風も、蝉の声も、一瞬遠くなった。
それは、ミッチへの同情じゃなかった。
もっと近い。もっと自分のことみたいな感覚。
「私が育てたのに」
「私のおかげなのに」
「私も、見られたい」
誰かを応援する気持ちと、自分も認められたい気持ちは、本当はすぐ隣にある。
その境界線で、嫉妬という名の影が生まれる。
それから、何十年も経った。
それでも、ふとした瞬間に、あの喉の熱さが戻ってくることがある。
誰かが、私の言葉や仕事をきっかけに、何かをつかんでいくのを見たとき。
嬉しい、と思う。
でも、その奥で、ほんの一瞬、同じ熱さが顔を出す。
「私が紹介したのに」
「私が口添えしたのに」
子どもの頃と、何も変わっていない。
でも、最近思うのは、それは、悪いことじゃないのかもしれない、ということ。
透明な感覚というと、なんだか綺麗で、穏やかなものを思い浮かべる。
嫉妬とか、ざわつきとか、そういうものとは無縁のような。
でも本当は、嬉しいと感じることも、苦しくなることも、同じ、ちゃんと感じられるという一点では、何も変わらない。
良いとされる感情だけを残して、嫌な感情だけを濾し取る、なんてことはできない。
透明とは、感じたものを、そのまま感じられること。
自分に嘘をつくことなく、受け入れること。
レモンの季節を読んでいたあの日の感覚は、消えていない。
60代になった今も、同じ熱さで、ちゃんと心の中にある。
それも、レモンイエローの物語の、ひとつの章だった。
第3章:透明なグラスのレモン
20年ほど前、ハワイで出会った、ひとりのおばあさん。
真っ白な服を着て、海岸を歩いていた。
なぜか意気投合して、彼女の家に招かれた。
ウッドデッキのテーブルには、透明なガラスの器。
その中に、レモンがいくつも並んでいた。
おばあさんは、それでレモネードを作ってくれた。
宇宙の話、魂の話、そして、ちょっとした魔法のような時間。
帰り際、おばあさんはペーパーナプキンに何かを書いて、私に渡してくれた。
そのときは、正直、何が書いてあるのか分からなかった。
スピリチュアルも知らなかったし、英語もまだよくわからなかった。
でも、その紙は、何年も経ってから、思いがけない場所で見つかった。
そこに書かれていたことは、まさにその後の私の人生そのものだった。
そのとき、答えが分からなくてもいい。
レモンを透明なガラスの器に乗せておくように、ただ、そこに置いておけばいい。
光が、必要なタイミングで、その意味を照らしてくれる。
心は、すぐに答えを出すものじゃない。
時間をかけて、透明になっていくもの。
第4章:レモネードのつくり方
When life gives you lemons, make lemonade.
運命がレモンを差し出すなら、レモネードを作れ。
人生が酸っぱいもの、困難や不運を差し出してきたら、それを自分の手で、甘くて価値のあるものに変えなさい、という意味で使われる言葉。
前向きで、力強い言葉だと思う。
でも、最近は、少し違う角度から、この言葉を見ている。
レモネードは、レモンの酸味を消す飲み物じゃない。
水と、少しの甘さを足すことで、その酸味が、ちょうどいい味わいに変わる飲み物。
変えるのではなく、加える。
レモンそのものは、レモンのまま。
酸っぱさは、酸っぱさのまま。
ただ、そこに、水とほんの少しの甘さが加わることで、飲めるもの、誰かに差し出せるものになる。
さっき書いた、あの嫉妬や「私が育てたのに」という気持ち。
それは、消す必要も、ポジティブな何かに変換する必要もない。
ただ、そこに何かを、少し足してあげればいい。
時間。
誰かに話すこと。
「あの時、そう感じてたんだな」と、ただ認めること。
おばあさんが作ってくれたレモネードも、きっとそうだった。
ひとりぼっちで心がすっぱくなっていた3日間に、不思議な時間がひと匙加わって、特別な記憶になった。
レモンそのものを、無理に甘くしようとしなくていい。
酸っぱさは、そのままでいい。
そこに、何かを足していけばいい。
それが、心でできる、ちょっとした魔法。
Purelize
英語には、「visualize」「organize」「realize」のように、「〜の状態にする」という意味を持つ、「-lize」で終わる言葉がいくつもある。
でも、「purelize」という言葉は、辞書には存在しない。
透明にする、という意味の言葉が、まだこの世界にはない。
それはきっと、まだ誰も、完全に「透明になった」ことがないから。
ワンピースの生地を、自分で選んだ日。
レモンの季節を読んで、喉の奥が熱くなった日。
ハワイで、意味の分からないメモを受け取った日。
どれも、何かが「完成した」わけじゃない。
ただ、心が、その瞬間の光を、ちゃんと受け取っていた。
透明になるとは、何も感じなくなることじゃない。
感じたものを、なかったことにしないこと。
光にも、影にも、ちゃんと気づいていること。
甘さと酸味、両方があるから、レモンになる。
選んだ喜びと、選ばれなかった寂しさ、両方があるから、その人になる。
あなたの中にも、きっと、レモンイエローの記憶がある。
誰かに選ばれたものじゃなく、自分で「これがいい」と思った何か。
うまく言葉にできないまま、ずっと心の奥にしまってある、あの感覚。
それは、もう一度、レモネードになるのを待っている。
Purelizeは、透明になっていく、という意志。
それは、いつか完成する状態じゃない。
今日も、心に差し込む世界を、どんなものとして受け取るか。
その選び方そのものが、もう、あなたの物語。

