色のない世界

命の表現者・未生希えみ(みぶきえみ)がおくるIn the Pinkの世界。

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突然現れた夢の中の私

図工の時間が嫌いだ。先生は、何を描いてもいいっていうけど、思うままに描くと怒られる。

先生の「何でもいい」は、風景とか動物とか、そんなもの限定だ。

私だってわかってる。そういうものを描けば、下手でも怒られることはないって。

だけど絵の具を前にすると、そんな風に取り繕うことなんて、できなくなるんだ。

色が語りかけてくる。それに応えるのが面白い。

だって、その時間だけは全てを忘れて、丸ごと私でいられる気がするから。

私は、画用紙に描かれた、私の世界にひたってる。

「これは何だ?」

先生はもう怒っている。

「今の気持ち・・・みたいな・・・」

私は、おどおどと答える。

そして、お決まりのお説教が始まる。

「絵を描くっていうことはだな・・・」

私は、画家になる気もないし、図工の先生になるつもりもない。

ただ、目の前のいろんな色の声を聴いて、画用紙の上に、重ねていきたいだけだ。

だけど、いつも怒られているうちに、だんだんと、私の楽しい気持ちはしぼんでいった。

けたたましく目覚まし時計が鳴った。眠れたような、眠れなかったような感じで、まだボーっとした頭で、天井を見つめる。

「夢か・・・」

枕もとの目覚まし時計を見て、小さくため息をつく。

朝はいつも憂鬱だ。重い体をやっとの思いでベッドから起こし、キッチンへ向かう。コーヒーの準備をしながら、夢のことを思い出していた。

子供の頃、絵を描くのが大好きだった。

幼稚園の頃に買ってもらった、12色のクレヨン。

想いのままに、色を重ねていく。

それは、ひとりで過ごす時間が長い私の、楽しみの時間でもあった。

白い画用紙に色を塗り重ねていると、誰もいない淋しさも、お腹がすいていることも、すべて忘れられた。

いろんな感情を、クレヨンが吸い取ってくれるような、不思議な感覚を体験していた。

決して、上手ではなかったかもしれないけど、できあがったものは、自分の宝物のような気がしていた。

嬉しい時のピンクと、悲しい時のピンクは、まったく違う。ほっこりとするような、綿菓子のような感じは、嬉しい時のピンク。

すべてが流れていくような、薄くなって消えてしまうような感じは、悲しい時のピンクだ。

どんな色のクレヨンを手に取りたいのかも、その時の気持ちで違っていた。

クレヨンに話しかけられて、その色を手にする。

そして、クレヨンは私の手を使って、自由にのびのびと、自分の色を描くのだ。

大好きだった絵を描くことが嫌いになったのは、小学校のあの図工の時間だ。

ちゃんと線を引くこと、ちゃんと色を塗ること、ちゃんと、ちゃんと・・・。

そんなことが繰り返されるうちに、私は図工の時間が嫌いになった。

先生に怒られないために、画用紙の色を乗せる。

単純で面白くない作業になっていた。

クレヨンの声、絵の具の声も聞こえなくなった頃、絵を描くことに、興味を失っていった。 

何であんな夢を見たんだろう。あまり思い出したくない、出来事なのに。

忙しい毎日を過ごしているうちに、そんな夢のことはすっかり忘れていた。

上司の理不尽な要求や、同僚との人間関係に疲れ果てながら、体に鞭打つように、会社と家との往復を繰り返していた。

新しい上司は、自分の保身しか考えてない人だった。

うまくいかず、業績が上がらなかったのは部下である私たちのせい、うまくいったことは、自分の手柄っていう感じの、典型的な嫌な奴だ。

理不尽なことは、日々山積みで、同僚とのランチタイムは、上司の悪口大会になっていた。

同じ怒りを抱える者同士は、会話もヒートアップする。

「何で時間内にこれができないのとか、自分の上司に言われたくないよね。」

「そうそう、そもそも、何で時間がかかるかわからないって、あり得んでしょ。」

「ホント、無能だよね。」

 次から次に出てくる、上司の悪口。

みんなどこかで、そんなこと言っても、何の解決にもならないってわかってるはずだ。

けど、他に怒りを吐き出す方法も場所も見つからなかった。

スッキリする反面、そんな自分を嫌だなとも思っていて、何もかも、捨ててしまいたいような気分になることもあった。

きっと、みんなも同じなんだろう。

こんなことが繰り返される場所にいたくない。

私には、もっと相応しい場所があるはずだ。

漠然とそんな風に思っていた。

だから、上司の悪口の次に、話題になることが多かったのは、転職と結婚だ。

職場が変われば、もっと人生が変わるんじゃないかと思えたし、大好きな人と結婚したら、バラ色の人生が待っているんじゃないかとも思えた。

けど、真面目に転職活動をする気もなかったし、婚活にも疲れ果てていた。

満足できる場所じゃなくても、長年勤めて慣れている今の職場は、楽でもあった。

転職したら、もっと自分の能力を生かせる仕事ができるんじゃないかと思う一方で、取り立てて、才能があるわけじゃない私は、新しく挑戦することも怖かった。

結婚も同じだ。

若い頃は、結婚したら幸せな人生が待っていると思っていた。

だけど、結婚した友人たちの話は、羨ましいと思うことより、大変そうだと思うことの方が多かった。

20代の頃のような、結婚に対する希望も、持てない自分になっていた。

ひとりの生活は、寂しいこともある反面、とても自由だった。

仕事の時間以外は、何に縛られることもなく、自分のペースで行動できた。

欲しいものを買ったり、旅行に行ったり、自分の意思で何でも決められる生活を、楽しんでもいた。

今の生活は、可もなく不可もなくといったところだ。

もっと違う未来を夢見ながら、それを信じることができずにいた。

今のままでも、そこそこ幸せじゃないか、現実なんてそんなものだと思おうとしていた。

日常がつまらないからこそ、非日常を楽しめるのだ。

私たちは、ちょっとの楽しみのために、日々の嫌な仕事を繰り返す。

それでいいじゃないか。

私の心の奥で、何かが壊れていく音には、耳を塞いでいた。

そんなある日、いつものように、帰宅途中の横断歩道を歩いていると、急に目の前がモノクロになった。

信号も、公園の木々も、ビルも、看板も、すべてが色を失っていった。

一瞬、何が起こったのか分からなかった。

瞬きをしてみたり、目を擦ってみたりしたけど、変わらなかった。

だけど、モノクロの世界に迷い込んだ私は、この不思議な現実を、すんなりと受け入れていた。

しばらく歩いていくと、心が軽くなっているのに気が付いた。

言葉ではうまく言えないけど、煩わしいものから、すべて解放されたような気持ち。

頭では全く理解できないけど、気持ちが穏やかになるのは、嫌ではなかった。

訳の分からない現実を、疑うことなく受け入れた自分に驚くこともなく、ただ家路へと急いだ。

部屋の鍵を開け、電気をつける。

見慣れた部屋も、すべてがモノクロに変わっていた。

化粧を落とすために洗面所に向かう。

鏡に映る私も、まるで古い映画のように、色を失っていた。

外の景色も部屋の中も、私自身も、すべてがモノクロの世界。

世の中は、なぜ色を失ってしまったのだろう。

モノクロの世界を、自然に受け入れた私は、いつものように、仕事をしていた。

同僚とランチに行って、上司の悪口を言うのが、習慣のようになっていたけど、怒りという気持ちがわからなくなっていた。

同僚は、相変わらず、上司の態度に怒りをあらわにし、激しい口調で罵っていた。

以前なら、私も同じように感じていたし、競って悪口を言っていたはずだ。

けど、モノクロの世界に住み始めてから、ただ、淡々と1日を過ごすことが多くなっていた。

気持ちのアップダウンがない生活は、とても楽だった。

色のない世界って、心が乱れない楽な世界なんだ。

そう気づいた私は、このまま、ここに住み続けてもいいなと思い始めていた。

モノクロの世界に住み始めて、どれくらいがたっただろう。

怒りや悔しさという気持ちがわかなくなった一方で、何をしても、楽しいとか嬉しいと思う気持ちも感じられなくなっていた。

あれほど好きだった、スイーツ巡りにも興味がわかなくなったし、大好きなアーティストの音楽を聴いても、心が和むことも無くなっていた。

映画を見る気にもならなかったし、旅行の計画を立てる気にもならなかった。

あれほど、楽しかった同僚との会話も、味気ないものになっていた。

ただ、ここに生きている。

真っ暗で音のない世界に、ひとり取り残されたように感じていた。

 

赤い渦の中

そんなある日、いつもの道を通って、仕事に行こうとした時、目の前に大きな壁が現れた。

突然のことに、一瞬ぎょっとしたが、世界から色が消えるくらいなら、何でもありなんだろうというような気持になっていた。

ありえないことを受け入れることだけは、上手になっていた。

その壁の前には、怖い顔をした大きな人が何人も仁王立ちになっていた。

彼らのひとりが、こう尋ねてきた。

「その子は、色の合言葉を知っているか?」

その子って誰だろうと思いながら、あっけにとられていると、右手が引っ張られた。

そこにいたのは、モノクロの小さくて、やせっぽちの女の子。

見覚えがあるような、ないような・・・。

誰なんだろうかと考えている間に、私とその小さな女の子は、真っ赤な渦の中に飲み込まれていった。

「痛っ」

思いっきり、尻もちをついた私は、そのあまりの痛さに、息を止めた。

女の子は、心配そうに私の顔を覗き込んでいる。

私は、右手で、大丈夫だよという合図を送った。

周囲を見渡すと、そこは様々な火が燃え盛っていた。

マッチの小さな火や、キャンプファイヤーのような火、そして、大きな城が炎に包まれるような大火事も。

すぐそばにいるのに、不思議と熱いとは思わなかった。

その、炎たちは、口々にいろんな言葉を、投げかけてくる。

「そのチビ、どうしようもないやつだな。」

「そいつ、生きてる意味あんの?」

「こんなに痩せっぽちじゃ、何もできないな」

「愛される価値もないよな」

「見捨てられて当然」

「…」

炎たちの暴言は、留まるところを知らなかった。

我慢しきれず、私は思いっきり叫んでいた。

「何で、あんた達に、そんなこと言われなきゃいけないの!この子だって、一生懸命、生きてるじゃない!」

自分でも驚くほど、大きな声をあげていた。

炎のひとりが、ボソッと言った。

「お前、このチビのこと、ちゃんと知ってるのかよ」

そう言われて、ハッとした。

ついさっき出会った、この子のことを、私は全く知らなかった。

だけど、懐かしいような、守ってあげたいような気持ちになっていた。

私は、そっとその子に語りかけた。

「あなたは誰?」

目を覗き込むと、さっきの炎たちが、ゆらゆらと揺れていた。

もしかして…

「さっきの声は、あなただったの?」

その子は、大きく首を左右に振って、唇をギュッと噛んで黙っている。

もう一度聞く。

「あの声は、あなただったの?」

小さな女の子は、震えながら、ゆっくりと私を指さした。

「えっ?私?」

何が何だかわからなくなった。

私がこの子に、あんな暴言を浴びせてたの?

何のために?

考えても、全くわからないし、この子が誰なのかもわからないのだ。

私だって、暴言を吐いたことはある。

だけど、それは上司や友達、親に対してで、こんな小さな女の子をいじめたりなんかしない。

あれこれと、考えを巡らしていると、女の子が、じっと私を見ていることに気がつき、再びその子に語りかけた。

「あなた、名前は?」

小さな女の子は、何も答えない。

「あなた、どこから来たの?」

小さな女の子は、黙ったままだ。

しばらくその子を眺めていた私は、こんな風に聞いてみた。

「ねえ、あなたも言いたいことがあるの?」

その質問を皮切りに、その子はマシンガンのように、まくしたてた。

「大切なぬいぐるみを捨てられて怒ってる」

「プリンを妹に渡すように言われて怒ってる」

「100点取ったのに、見てくれなくて怒ってる」

「・・・・・」

「・・・・・」

溢れるように出てくる言葉は、まるで終わる様子がなかった。

どのくらいの時間がたったんだろう。

女の子は、いろんなことに怒っていると訴えた。

怒りの感情を吐ききったその子は、真っ赤な頬をして、ちょっと大きくなったように見えた。

この子は、理不尽な言葉や出来事に、怒りを抱えていたんだ。

けど、ここに来るまで、我慢してたんだろうか?

なぜ、怒ってるって言わなかったんだろう。

私は思わず、女の子を抱きしめていた。

女の子の体は、硬く緊張していて、私の腕の中から、スルッと抜けていった。

まるで、あなたなんて、信用してないんだからって、言われているようだった。

女の子の怒りは、どうしてこんなにも溜まってしまったんだろう。

私だったら、きっと友達と飲みながら、発散するのに。

そう思った瞬間、女の子は呆れたように言い放った。

「何も分かってないのね。」

生意気なその言葉に、怒りの気持ちは感じられず、私は、何だかとっても悪いことをかしてしまったような感覚に覆われていた。

女の子は、どうしたらいいのかわからずにいる私の右手を引っ張りながら、目の前の道をどんどん歩いていった。

ちっぽけな女の子とは思えないような、力強い足取りで、どんどん前に進み、暗い森の中へと入っていった。

道ともいえないような、小さな道をしばらく歩くと、目の前に現れたのは、大きな湖だった。

 

青い水の底

湖の前に立っていると、見覚えがある大きな壁が現れた。

けど、そこに立っていたのは、さっき見た、怖い顔をした人たちだけじゃなく、幽霊のように存在感のない人たちだった。

「その子は、色の合言葉を知っているか?」

同じようなセリフを、ついさっき聞いたような気がしたけど、それが、現実なのかどうなのかも、思い出せないくらいだった。

その壁の前に立っていると、ゆっくりと足元から水に浸かっていくように感じていた。

湖の前に立っていたはずなのに、その足元は湖の中だ。

そして、ゆっくりと水面が上がり、あっという間に、膝上までやって来た。

早くここから逃げなきゃと思っていると、女の子は、再び私の右手を強くひっぱり、その水の中に飛び込んだ。

「ちょっと何するのよ!」

その子に向かって、声を荒げる。

水の中に飛び込むなんてありえない。

早くここから逃げなきゃ。

だけど、女の子の力は強く、あっという間に水の中に引きずり込まれた。

だけど、不思議なことに、水の中にいるのに、呼吸もできた。

絡まって来る珊瑚や海藻に足をとられながら、ゆっくりと前に進むと、私は大きな水槽のような物に囲まれていた。

そこには穏やかな波や荒れ狂う波、そして、カチコチに凍った水の塊が溢れていた。

よく見るとその水槽は、氷でできていて、ゆっくりと溶けだしているようだった。

そう思った瞬間、氷は解け、大きな波が襲ってきた。

私は津波のような波にのまれながら、グルグルと廻っている。

どっちが上なのか下なのか、それもわからない程、渦の中に巻き込まれていた。

しばらくすると、その勢いは、徐々に少し緩やかになっていった。

ひとつの氷の塊が、私の目の前に現れ、まるで映画のようにスクリーンを映し出す。

そこには、小学生の頃に飼っていたハムスターがいた。

ひまわりの種を食べる姿がとても可愛くて、見ているだけで幸せになった。

体が弱かった私は、学校を休むことが多かった。

共働きの両親は忙しく、私は一人きりで留守番をすることも多かった。

そんな時、買ってもらったハムスターは、私の気持ちを支えてくれるようになっていた。

氷は波に乗って流れていき、また別の氷がやって来た。

そこに映し出されたのは、ハムスターのシロが死んだ日だった。

両手で大切そうに、亡くなったシロの体を抱えている小さな私。

あの時、本当は大声で泣き叫びたかった。

だけど、家族の誰もシロが亡くなったことを悲しんでくれる様子はなく、暗い気持ちで落ち込んでいる私に、母が言った。

「生きてるものはみんな死ぬんだから、ハムスターが死んだくらいで、そんな顔しないの。うっとうしいでしょ。」

私は、母の顔を覗き込み、深い悲しみを心の奥へと閉じ込めた。

それ以外にも、悲しいことは沢山あった。

だけど、そんなことくらいで泣いちゃいけないって言われてたし、泣くのは悪いことだと思ってた。

だから、悲しかったことをなかったことにしてきたのだ。

普段は、そんな悲しみなんて、感じることはない。

私は、その悲しみをどこに閉じ込めていたんだろう?

あれ、女の子はどこに行ったんだろう? 

波にのまれた時に、はぐれてしまったんだろうか? 

そう思いながら、緩やかな波に漂っていると、後ろから声がした。

「ちょっと手伝ってよ!」

女の子は、その小さな体には不釣り合いな、大きなリュックを背負って、ゆっくりと近づいてきた。

女の子のリュックの中には、カチコチに凍った氷の塊が、いくつも入っていた。

「それ、何なの? 半分持ってあげるよ」

私が声をかけると、女の子は被せるように、こう言った。

「誰のせいでこうなってると思ってるの? 何もわかってないんだから」

そういえば、さっきも同じセリフを聞いたような気がして、考えを巡らせていると、女の子は、そのリュックを背負ったままで、どんどん前に進んでいった。

 

黄色の砂漠の中

海の底をずっとずっと歩いていくと、地面が見えてきた。

海の中のはずなのに、その地面はカラカラに乾いていて、まるで砂漠のようだった。

そして、再び、あの大きな壁が現れたが、そこに立っていたのは、怖い人でも、幽霊のような存在感のない人でもなく、おどおどしている人が、身を寄せ合っていた。

「その子は、色の合言葉を知っているか?」

人は変わっても、この壁が現れると、言うことは同じなんだ。

これってどういうことだろう? 

そもそも、色の合言葉って何だろうか? 

答える間もなく、いつも予想外のところに連れて行かれる。

けど、そこに立っていても何も起こらなかった。

女の子は、いつの間にかリュックを下ろしていて、最初に会った時のような、モノクロで小さな女の子に戻っていた。

足元は砂漠で、私たちはなぜか裸足だった。

そこに立っているのはとても熱くて、私は、女の子の手を引っ張りながら、日陰に行こうと歩き始めた。

だけど女の子は、全く動かない。

「ここ熱いよね。あっちに行こうよ」

女の子は、黙ったままうつむき、体を緊張させていた。

私は、女の子を抱き上げ、歩き始めた。

その途端、足元の砂は渦を巻いて、私たちを飲み込んでいった。

まるでアリ地獄にでも、吸い込まれていくようだった。

渦に飲み込まれるのは慣れてる。

今度はどんなところに行くんだろうと、冷静に考えている自分がいた。

だけど、どこかにたどり着く様子はなく、延々と渦に巻かれながら、深く深く、どこかに落ちていく。

さすがに私も不安になってきた。どうなってしまうんだろう?

 

真っ暗な洞窟の中で

暗闇に向かって落ちていく間、いろんな言葉が私の頭の中を、流れていった。

もしかして、こんな風に暴言を投げかけたのは、小さなモノクロのあなたの声を聴くのが怖かったから?

本当の声を聴くのが怖かったから?

本当の自分の声を聴くのが怖かったから?

えっ?

自分の声を聴くって何?

あなたは私だったの?

あの時、閉じ込めてしまった私の気持ち。

あの子は、私のそんな気持ちを知ってる。

もっと、言いたいことがあるんだ。

私は、小さな女の子に話しかけた。

「言いたいこと、全部言っていいよ。責めないから。」

すると彼女は、震えながら話し始めた。

「また、父が出ていくかもしれないと思って怖かった」

「母の機嫌を損ねて、見捨てられるのが怖かった」

「自分が消えてなくなりそうで怖かった」

「・・・・・」

「・・・・・」

彼女が抱えているのは、大きな不安や恐怖。

生きていることさえ脅かされるような強い思いに感じられた。

こんなに小さな体で、どれほどの不安や恐怖を、抱え込んでいたのだろう。

誰かに話すという、手段を知るすべもなくて。

そう思った瞬間、私は彼女を抱きしめていた。

 

真っ白な壁

どれくらい、その子を抱きしめていただろう。

ふと気づくとそこは、寒々とした、真っ白の壁だけが並ぶ街だった。

行きかう人々は、生気を失い、まるで死んでいるかのような濁った眼をしていた。

道を歩いていくと、ひとりの老女と目が合った。

「あの、ここは何という街ですか?」

老女は、全く表情を変えないままこう言った。

「色のない世界。いずれあんたたちも来るところだよ。色を手放したんだろう?」

老女の瞳の奥に、燃え滾る炎、深い悲しみの海、カラカラの砂漠が見えたような気がした。

もしかしたら、この人は、たくさんの色を閉じ込めて生きてきたんだろうか?

私も、この人みたいになってしまうんだろうか。

そう考えると、鳥肌が立ち、大きなガラスが割れるような衝撃が走った。

そして、その老女にこう叫んでいた。

「あなたのような、死んだ目をして生きていたくない。辛くても苦しくても、私の色を取り戻したい。」

私はその白い壁に向かって、色とりどりのペンキをぶちまけていた。

そばで、女の子もペンキを手に取っている。

美しい絵でもなく、感動的な絵でもないけど、心が温かくなるには、十分なほど素晴らしいものだった。

両手は、ペンキだらけになり、服も顔も汚れたけど、とても満足だった。

 

暖かさに包まれた庭園の中で

左手を開いてみて。どこからか声がした。

ゆっくりと手を開いてみると、握っているのは、美しい光を放つ小さな三日月の形をしたガラスだった。

怒りに震えていた時、悲しかった時、怖かった時、小さな三日月の光だけが、真っ暗な心を照らしてくれた。

激しい怒りを抑えるために、歯をくいしばってた。

どんなに悲しくても、涙が流れないように、目や眉間に力をいれて悲しみをこらえた。

ストレスや恐怖や不安を感じたときに、全身に力を入れて、筋肉がカチコチに固まった。

体中が緊張し、いつも、猛獣にでも襲われているような反応をしていたのだ。

これ以上、何かを感じてしまったら、心が壊れてしまう。

それほどまでに、感情のナイフは鋭くとがっていた。

感情を閉じ込めることで、自分を守っていた。

そして、誰かの感情に乗っかることで、それを自分だと思っていた。

同僚の感情を自分のものだと思うことで、本当の自分の思いに蓋をした。

だけどあの日、偽りの自分に限界がやって来たのだ。

感情を無視し続けた私の前にやってきた、小さな女の子。

そして、色の世界を旅することで、多くのことに気づき始めた。

閉じ込めた感情は、なくなることはない。

閉じ込めていた感情のふたを開けることでしか、本当の人生を生きることはできないって。

愛が不在の家庭で育った。

望んでも望んでも手に入れられなかったもの。

いつしか、愛を望むことにも疲れ果て、拒否するということで、解決しようとしていた。

両親は、愛を与えてくれなかったけど、私はそんなことに関係なく、社会の中でうまくやってる。

あなたたちの愛なんていらない。

そうやって、両手を閉じてきたのだ。

なくした色は、感情だったのだ!

怒りや哀しみを封印する代わりに、喜びや楽しさも、決して感じることができなくなっていたのだった。

あれほど、手放したいと思っていた、怒りや悲しみの気持ち、わけのわからない不安。

それは、喜びや楽しさと一緒にあるものだったのだ。

そう思ったとたん、女の子は優しい色を帯び、炎や海や砂漠は、空に舞い上がり、大きな綿菓子のように拡がって、私を包んでいった。

これが、愛なんだろうか?

愛に包まれているというのは、こんなにも体が緩み、暖かくなることなんだ。

手をつないだ、その小さな女の子は、もう震えてはいない。

ありったけの笑顔を私に向けて歩いている。

駅のホームへの階段を上がっていると、列車の発車ベルが鳴り始めた。

「急がなきゃ」

そう思った瞬間、女の子が初めて微笑みながらしゃべった。

「ゆっくりでいいよ。乗る列車は決まってるんだから。」

そう、ゆっくりでいい。

目の前を去っていくように感じるものさえ、計画通りなのだと思うと、女の子を抱き上げていた。

「ねぇ、もう一度絵を描きたい。」

女の子が、初めて自分の望みを語った。駅のホームには、大きな白い壁があり、そのわきにはペンキの缶がいくつも並んでいた。

「さっきのより、大きな絵を描こう、一緒に!」

けたたましくなる目覚まし時計。

カーテンを閉め忘れた窓から入ってくる、生まれたての太陽の光。

気が付くと、自宅のベッドの上だった。

「夢か・・・」

それにしても、長くてやけにリアルな夢だった。

まだ、頭が半分眠っているような、フワフワした感じ。

仕事行かなきゃなと思いながら、ゆっくりと体を起こす。

指先にふと視線を落とす、色とりどりの絵の具が、楽しそうに笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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Healing Space Cynthia シンシア

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