キメラという、ひとりの中にある、ふたつのDNA
僕が「キメラ」というものを知ったのは、就職してからだ。
もしかしたら、両親のどちらかがキメラだとしたら・・・
そんな淡い期待を抱くことができたからだ。
キメラというのは、ギリシャ神話に登場する、ライオンの頭と山羊の胴体、蛇(または竜)の尻尾を持つ怪物に由来している。
僕は、O型だといわれて育ってきた。
アルバムにもO型と書いてあるし、何より母に「両親ともにO型なんだから、あんたも妹もO型」といわれていた。
それなりに血液型占いでも、当たってるような気がしていた。
妹は、小さい頃にけがをして入院したことがあって、O型だとわかっていた。
そして、母も僕が小学生の時に、手術をすることになって、O型なのは確実だった。
だから、僕もO型だと信じて疑わなかった。
そんなある日、衝撃的なことが告げられた。
献血に行った先で、A型だといわれたのだ。
僕は献血車の看護師さんに、「両親もO型なので、O型のはずですが。」と言ってみた。
すると看護師さんは「きっとご両親の記憶違いね。結構よくあるのよ。」と笑っていた。
その後、たまたま生物の授業で、血液型の遺伝についての授業があった。
O型の母から、A型の僕が生まれるためには、父親がA型かAB型名はずだ。
僕は、きっと父の血液型が、O型ではないのだろうと、軽く考えていた。
それから1年後、入院した父のお見舞いに行った先で見たのは、O型の輸血をしている父の姿だった。
僕の頭は真っ白になった。
僕は、両親の子供じゃない?
そんな思いが、頭の中をぐるぐると回り始めた。
母が浮気をしたのか?
それとも、父もこのことを知っているのか?
もしかしたら、赤ちゃんの時に取り違えられたのではないか?
自分という存在が、揺るがされるような大きな衝撃を受けた。
けれど、当時の僕は、そのことを母に確かめることができなかった。
現実から逃げたかったのかもしれないし、聞いてはいけないような雰囲気もあった。
見てはいけない事実として、心の奥に押し込めたその出来事は、次第に僕の中で、なかったことになっていた。
それから数十年、自分が手術をすることになって、血液型のことを、思い出さざるを得なかった。
僕がA型であるという事実は、変わらなかった。
僕は、両親に、それなりに愛されて育った。
なのに、こんなにも自分の存在が不確かになるのは、どうしてなんだろう。
自分は、代々受け継がれた中で育ってきたと思っていた。
ごく一般的な家庭だったけど、疑ったことなんてなかった。
自分のルーツがわからない。
それが、こんなにも不安な気持ちにさせるなんて、予想もしなかった。
両親であっても、別人格だし、僕は僕で人生を歩んでいく。
ずっとそう思ってきた。
けどそれは、自分のルーツが確実だからこそ、持てる感覚だったのか?
そんな時に出逢ったのが、キメラという考え方だった。
もし、両親のどちらかがキメラであれば、僕が両親の子供でありながら、A型である可能性があるのだ。
それは、とてもとても、可能性が低いものだけど、僕の気持ちを静める材料になった。
そういえば、昔、ご対面番組があった。
立派に成人して、社会的にも成功しているような人が、本当の母親を求めている姿が、思い出された。
人は、どうして自分のルーツを知りたがるのだろう。
そして、そのルーツがあいまいな時に、存在そのものの不安感を感じるのは、どうしてなんだろう。
今の僕にはわからない。
だけど、僕にはひとつだけわかることがある。
確実な事実よりも、目に見えない愛や信頼という感覚が、大きな拠り所になるということ。
それは、誰かに対してのものじゃなくて、自分に対する愛と信頼だ。
どこから来たのかなんてわからない、どこに行くのかもわからない。
だけど、今ここに生きているということだけは、確実なものだ。
今夜はクリスマスイブ、ケーキを買って、妻と娘が待つ家路へと急いだ。
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